郡上本染の始まりは、江戸時代に入る少し前、天正年間(1573年〜1592年)といわれ、
現在430年余を経過して現在に至っており、岐阜県下で唯一の本染技法を今日に継承しています。
「郡上本染め」という呼称は昭和四十年代につけたものです。
もともと藍染めをはじめ、鯉のぼり等いろいろなものを染め、洗張り等もする田舎の萬染物屋でした。

郡上本染の特徴とは・・・・


   <1>藍染   と    <2>鯉のぼり(カチン染め)

の二つにあります。

藍染めは、藍草で青、紺色等に染めるもので、土間に埋め込んだ甕に藍玉、木灰等を混ぜ、藍染め液を醸成し、
その甕の中で布を何回か浸して染め上げる伝統的な染色技法です。


土間に埋まった藍甕です。安定した地温で発酵しています。

藍は、天然染料の一つとして古くから用いられ、江戸時代には、藍で染められた布から発散する匂い(気体)は、
防虫剤の役目を果たすことから、一般庶民の暮らしの中で使われることも多く、農作業の仕事着から火消しの法被、
お祭りの衣装にも使われました。特に、藍染めの風呂敷は、高価な絹の着物の防虫用に使われたといいます。


嫁入り道具の一つ「祝風呂敷」。防虫効果があるとされています。

藍の効用は和洋を問わず、古代インド、中国、ヨーロッパでも使われたといいます。
わかりやすい例としては、アメリカのカウボーイの労働着であったGパンもインデイゴブルーの染料で当時は染められていたといいます。
日本では、大正時代までは全国でも数多い藍染め紺屋があり、郡上八幡でも昭和初期には、17軒の紺屋がありましたが、
現在は渡辺家ただ1軒だけとなりました。伝統的な本来の藍染めはめっきり減り、
自然の植物から抽出された藍は、科学的に合成された化学藍にとって代わられてしまった昨今です。
上っ面の時代が本物の文化を奪い去った典型的な一つの例であります。

一方、鯉のぼりは、大豆の搾り汁を使ったカチン染の技法が用いられます。
長さ4.5mの2本の竹竿に結びつけた白い木綿布にもち糊で輪郭を描き、もち糊を乾燥させます。
顔料に大豆のしぼり汁を加え、色付けを行い、2日程度乾燥させた後、もち糊を清流で洗い落とします。
この作業を「寒ざらし」といいます。冬の冷たい清流で洗われた「鯉のぼり」は布が引き締まり鮮やかな色彩を出します。
こうした、作業風景は郡上八幡の冬の風物詩として定着しており、作業は昭和45年から一般公開しています。


毎年1月20日(大寒)と、2月第2日曜日に郡上八幡の吉田川で作業公開します。

この両方に共通する技術として 筒描 を用います。

古くから伝わる「筒描」技法は、 練り上げたもち糊を「筒袋」に入れ、絞り出しながら手描きで柄を描きます。


筒描に用いる「もち糊」と「筒袋」


全て手作業で行われます。自由で伸びやかな線が特徴です。

糊が乾燥した後、何度も天然藍の藍甕に浸し、 水洗いし、乾燥させる工程を繰り返し濃紺に染め上げています。
非常に手間が掛かる作業を繰り返す為、現在ではこの筒描藍染の 技法は殆ど残っておりません。
職人の手の動き、感触がそのまま図柄に描きだされた逸品です。
鯉のぼりも同様に、「筒描」技法を用います。筒描したのち、顔料を大豆の絞り汁(呉汁)をハケで何度か着色します。


<1>藍染について

藍草で青・紺色等に染めるものです。土間に埋め込んだ甕で、すくも、木灰、石灰等を混ぜて
藍液を醸成し、布を何回も浸して染め上げる江戸時代の染色方法です。



特に、渡辺家では、江戸時代は町火消しの法被とかお祭りの衣装等を製作していました。
江戸時代には火消の印半天、お祭りの衣裳等も染めていました。
柄によっては朱色・茶色等の顔料も使います。


使い込んだ正藍染半天「龍」。使うと年々色合いが変化していきます。
藍染の大きな特徴です。


防染糊(餅米粉等を煮て作る)を型紙で付けたり、
布の両面(表・裏)を筒描きして、色付けをした後、何回も藍染めをして紺色に染めます。


筒描に使うもち糊はも全て手作りです。釜戸で煮て、練り込みます。
釜戸で燃やした薪の木の灰も、これからアクを取り、藍染で使います


(1)天然藍について

藍は大きく分類すると、草から取れる天然藍と化学的に合成した化学藍に分かれます。
天然藍は、日本ではタデ科の草の蓼藍が最も一般的に栽培されています。
蓼藍の中には藍色素のもとになるインディカン分子が含まれており、
蓼藍を発酵させた藍液で染めることにより、青色(インディゴ)が着色します。
天然藍の藍液には青藍の色素は一割未満しか含まれておらず、
紺色に染めるには何度も、藍液に浸し、着色する必要があり、非常に手間がかかります。
藍液の残り九割り以上は不純物です。しかしこの不純物に天然藍の大きな特徴があります。
天然藍には、この青色色素の他に、フラボノイド系やタンニン系の黄茶色の色素が含まれており、
布を染める事で、青色とともに黄茶色が染まり、渋味のある独特の風合いが出ます。
また、天然藍液の不純物には防虫効果があり、さらにいくつかの薬効効果があるといわれており、
染まった生地は丈夫で、身体にもやさしく、古来から庶民に愛されてきました。


天然藍。タデ科の植物。畑でしっかりと栽培する事で色素の多い藍草に育ちます。

化学藍はインディゴ ピュアーと呼ばれ、天然藍に含まれる藍の色素成分であるインディゴを化学的に合成します。
天然藍の様な不純物が無く、色素だけですので、効率良く染める事は可能ですが、
天然藍の様な、風合いや、効能は期待できません。
弊店では今なお、手間の掛かる天然藍で全ての藍染製品を染めています。


(2)藍の原料「すくも」が出来るまで

蓼藍という一年草の植物を畑で育てます。徳島県が藍の主産地です。
蓼藍が成長したら刈り取ります。葉と茎を選別し、葉を天日でよく乾燥させます。
秋になると、この乾燥させた藍葉を藍蔵の中で山積みにし水をかけて寝かせます。
この段階から藍葉の発酵が始まります。蔵の中は発酵の熱で高温になります。
藍葉はこの藍蔵の中で百日以上発酵を続けます。
発酵が均一になるように、水をかけたり、掻き混ぜたり(切返し)します。
この水の分量、切返しの方法、温度調整は非常に難しく、専門の職人の手で行われます。
この工程を繰り返し、12月に青黒い土の塊のような「すくも」が出来上がります。


左:藍の干草、右下:すくも、右上:すくもを搗き固めた藍玉

その量は最初の藍葉の約半分になっています。一俵60kg入りのCが等級別に別けられて取り引きされます。
「すくも」づくりでは徳島県が有名ですが、昔はこの八幡でも農閑期の農家の人の協力も得て、「すくも」づくりが行われました。
「すくも」を臼でつき、四角に固めて乾燥させたものは藍玉と呼ばれ、以前は、運送の便宜上、藍玉で取り引きされました。
藍の取り引きでは、手板法という藍の品質鑑定方法が用いられ、品質に応じてそれぞれ値段がつけられました。


(3)藍液作り

藍液の原料になるのは、「すくも」、灰汁(あく)等です。
藍甕の中に、薪を釜戸で燃やした木灰に熱湯をかけて抽出した灰汁を入れます。
この灰汁に「すくも」等を練って溶かし込み、他の甕の藍液を入れ、よく掻き混ぜます。
2〜3週間毎日掻き混ぜると、発酵が進み、藍甕の真ん中に藍の華ができます。


藍甕は使う日も、使わない日も必ず混ぜて調子を見ます。
甕の中央の濃い紫の泡が「藍の華」です。


藍液は常に藍甕の中で発酵が進んでいます。季節、天候によって発酵の度合いが異なるので、灰汁の強さを加減したり、
冬は火で藍甕を温めたりして、藍の発酵を調節し、よく染まる状態に管理することが大切な技術です。
藍液にも寿命があり、染まらなくなると、新たに藍液を作りなおします。
寿命は、染め方、季節などにより、決まっていませんが、出来るだけ長く使えるように管理する事も難しい技術です。


(4)正藍染製品のお取り扱い注意点について

藍染製品は昔からの染料で、使用するうちに色合いが徐々に淡くなり、風合が出ますが、その性格上、逆に
いくつかのご注意いただかなければならない点もございます。長くお楽しみいただく為にも是非ご理解下さい。


※藍染は藍色が糸や生地の内部に浸透して染まっているのではなく表面を覆っている状態です。
  そのために頻繁に摩擦する部分や、水濡れしている部分を摩擦しますと色落ちいたしますのでご注意ください。
  ご利用いただくうちに徐々に色落ちしにくくなります。

※革製品などに摩擦で色移りすると、付着した色を落とせませんのでご注意ください。特に淡色の革製品との摩擦はお避けください。

※色を落ち着かせるため、お買い上げいただいた時から2〜3年は洗濯は出来るだけ避けてください。
  洗濯は手洗いをおすすめします。蛍光剤・漂白剤の混じらない中性洗剤で軽く押し洗いしてください。
  (蛍光剤・漂白剤入りの合成洗剤を使用すると、ムラなどの原因になる場合がありますので、ご使用にならないでください。)
  部分的に擦ると色ムラになりますのでご注意ください。
  洗い終わりましたら、形を整えて陰干しにしてください。
  脱水機・乾燥機はお避けください。

※クリーニングはお避け下さい。どうしてもクリーニングに出される場合、高価な製品ですので、製品の過度な色落ちが無いか等、
  藍染製品を責任を持ってクリーニングできるかどうかを業者にご相談ください。
  クリーニングによる製品の色落ち、風合いが損なわれた、傷ついたなどのトラブルは弊店では責任を負いかねます。
  タンブラー乾燥はお避けください。

※保管は必ず箪笥や箱等の湿気の無い暗所に保管してください。
  長期間ご使用にならない場合は一年に一度程度かぜを通してください。
  長時間同じ位置に直射日光が当たったり、長期間同じ位置に蛍光灯の光が当たると、
  その部分が日焼けすることがございますのでご注意ください。


各種浴衣。全ての工程が手作りですので、製作にお時間をいただく事がございます

(5)英語の説明

INDIGO DYEING

In old days, Japanese people dyed cloth and yarn with the natural dyes made from wild plants.
However, with the development of the chemical industry, synthetic dyes took the place of natural dyes and drove traditional dyeing with natural indigo to a sharp decline. Nowadays, our “Konya” dyeing shop is the only one in the Chubu District of Japan that adheres to the old technique of dyeing with natural indigo.
Our “Konya” shop, founded about 430 years ago, and located in the castle town of Gujo-Hachiman in the bosom of mountains, is proud of its own dyeing technique that was handed done through generations and designated lately as an intangible cultural asset by the Gifu Prefectural Government. All works being done by hand, our products such as table mat, carp streamer, streamer, shop-curtain, livery coat and wrapping cloth enjoy wide-spread popularity for their simple beauty and the tastefulness peculiar to handicraft articles.
Our indigo dyeing means dyeing blue or dark blue with natural indigo. Dyeing liquid is elaborately prepared, in a vat installed in the earth floor of the shop, with such material as indigo ball, ash from plants, lime and wheat bran, and the dyeing work is finished by dipping the cloth repeatedly in the liquid.
In the Edo period, indigo-dyed wrapping cloth was favorably used for preserving silk kimonos (clothes) due to its mothproof effect which is believed to be the influence of a kind of insecticidal effect.


<2>鯉のぼり(カチン染め)について

藍染は、甕の藍液に何度も浸して染めるのに対し、鯉のぼりや神社幟などは刷毛で染料を塗っていきます。
特に顔料は日焼けに強く、いつまでの鮮やかな色合いを保つ事から、昔から幟類の染色に用いられました。
顔料自体には生地に定着する成分が無い為、着色する時に大豆の絞り汁(呉汁)に顔料を混ぜ、染料を調合します。
大豆の成分が生地に色を定着させるのです。
カチン染めの「カチン」という名前の由来は、布を丈夫にすることから「カチカチにする」(布を堅くする)という説がありますが、確かではありません。
現代社会では、印刷技術の進歩で、幟類が印刷等で製造される場合も多くなりましたが、弊店では、現在でも、幟類の着色には呉汁を用いております。